毛皮の歴史~人類最古の衣服から産業へ

1 古代から中世

毛皮の歴史は古く、衣類の素材として最も古いもので原始時代から用いられている。
古代において、毛皮は富と権力と威信を意味するものとなり、紀元前2年、バビロンの女王はインドから8,000枚の虎の毛皮を持ち帰り宮廷の床を飾り、中期エジプト王朝ではヒョウの毛皮を王家の象徴とした。
11世紀以後急速な発展をとげたインカ帝国はチンチラを王家の毛皮に定め、西ヨーロッパではアーミンが王権の象徴であった。

また、毛皮は世界で最初に売買されえた産物の一つである。
国際的な毛皮貿易のパイオニアであったフェニキア人が、イギリスまで到達したのが紀元前6世紀。
現在はロンドンとなっているテームズ河沿いの地で、彼らは金属器や手工芸品と毛皮とを物々交換した。
1200年~1300年代、ヨーロッパの経済好況で、ますます毛皮の取引は盛んになった。
十字軍戦士はシリアやパレスチナから新しいファッションを持ち帰り、それらのコスチュームの多くには、珍しい毛皮の装飾がほどこされており、毛皮はファッショナブルでトレンディーなものとなり当時の人々の心をつかんで離さなかった。
人々が毛皮に限りのない興味を示すので、毛皮は課税の対象となり、15世紀のイギリスでは、王族、貴族、そして1年に少なくとも100ポンドを教会に寄付することが出来る人々だけが、セーブルと白てんを着ることが許されるという法律が採用されたというエピソードも残っている。
フランス人とイギリス人が、カナダを植民地にした第一の理由は、ヨーロッパの毛皮の需要に応えるためだったという説もある。

 

2 近・現代

19世紀と20世紀前半における経済的な発展とそれに伴う人口の増加の結果として、新しいタイプの毛皮の輸入を開始せざるを得ないような需要が生じ始め、毛皮動物の養殖も開始された。最初は狐、次にミンクである。

極寒地の毛皮衣料は別にして、長い間、ライニング(裏打ち)やトリミングにしか用いられず、初めてガーメント(毛皮の表使い)に用いられたのは19世紀後半である。
表使いが主流となるのは、第一次世界大戦(1914~1918年)を過ぎてからである。
また、それまでのさまざまな毛皮の常識をくつがえしたのは、1960年代から1970年代にかけての加工技術の向上と時代の風潮によるものである。
現代の毛皮の需要もまた、他の素材と同じく流行の波をうけている。